おくりもの

雲従街の往来は、今日も行李を背負った行商人やひやかし客で賑わっていた。
ジェシンは後をつけている人物を見失わないように、人ごみの間を縫うようにして進んでいく。まっすぐに見据える先には、背の低い華奢な体つきの青年の姿がある。中二房の同室生であり後輩である、テムルことキム・ユンシク。彼は──いや彼女は、成均館からの荷をいっぱいに携えてせわしない往来を下っていく。久しぶりの帰宅に浮かれているのだろうか、彼女の足取りがこころなしか軽く感じられた。
途中、ユンシクはいくつかの露店に立ち寄った。その都度、ジェシンも立ち止まって興味もない露店をひやかすふりをする。そうしている間にも、彼女はなけなしの小遣いで買った菓子を、傍らで物欲し気に見ている姉弟に分け与えてやったり、店先に並べられた女物の装身具に目を輝かせていた。そんなテムルを、彼は無意識のうちに見つめていた。
ユンシクがまた歩き始めたのを見計らって、ジェシンは先ほどまで彼女がひやかしていた装身具の露店に立ち寄った。彼女が買わずに置いていったのは、おさげ髪に着けるテンギ【リボン】だ。娘らしい華やかな薄紅色に、花の刺繍があしらってある。
しばらくそれを手にとって、遠ざかっていくユンシクの後ろ姿と見比べていた彼は、やがて意を決したように懐に手を入れた。銭を出す手間が面倒で、巾着袋ごと無造作に放り投げる。似つかわしくない場所から早く立ち去りたかったのだ。なのに受け取った売り子は、呆れたように苦笑しながら中身を開けた。代金分だけ銭を取って、袋は返して寄越す。
「お兄さん、もしかすると良い人への贈り物ですか?」
微笑ましそうに目元を緩めながら聞かれ、思わず目が泳いでしまう。そんなんじゃねえよ、とぶっきらぼうに返すも、お節介な売り子は微塵も信じていないようだった。
「ちょうどさっきも、同じものを見ていらした方が。これ、可愛いでしょう?娘さん達に人気のreenex cps價錢お色なんですよ。きっと、喜ばれますよ」
言われてみれば、女人に贈り物を見繕うなど、彼にとっては生まれてはじめてのことだった。


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