ワールドカップパーティー以来、なんだかよくわからない若者が川沿いに増えた。調子に乗ったボート仲間達は暇があれば彼らと騒いだりパーティーしたりしていた。
旦那も仕事から戻るとすぐにビールの缶を開けて仲間達の輪に入る。
日が長くなり、夏の眩しい光がキラキラとテムズ川に反射して、暖かい風が心地よい。イギリスの夏は何か特別な季節だという気がしてくる。
わたしはパーティーには参加しないまでも時々ボート仲間達と話したり、川沿いで娘と寛いだりする。なので、ボート住民の中でたった一人のちびっ子の娘は、突然現れるようになった若者達の人気者になった。彼らは特にわたしには話しかけてこないが、娘は構ってくれる。娘は若いお姉さんやお兄さんが増えたので、公園に行くよりも河原で遊んでいたいようだった。
ボート仲間の他にも人が増えたので、今までの夏よりもまた更に賑やかになった。それなのに、おかしなことに地域住民からの苦情が一つもこない。地域新聞でも叩かれなくなった。これってなんだか、嵐の前の静けさみたいで怖い。
わたしが旦那にそんなことを言うと、旦那はもっと怖くなるようなことを言った。
「いつもいる若いヤツら、あいつらこの地域住民達の孫や子供達だよ。あいつらがボート住民を攻撃するなとか、言ってくれてるんじゃないか?」
えー!そうなの?わたしびっくり!って言うか、旦那のんきすぎる!
これってなんだか、すごく怖い。だって、住民達も今マスコミに写真とか撮られたら、自分の身内が新聞やニュースに出てしまう可能性があるから黙っているのかもしれないけど、もうこのコミュニティーが近々無くなるって分かってるから今は目をつむってるだけってことかもしれないじゃん。なんだか、わたし達の陰で何か行われているとしか思えない。
ボート仲間達もなんだって、そんな若者達を受け入れているんだろう。なんだか人間関係の仕組みがわからなくて混乱する。
ボートコミュニティーに毎日のように笑い声が響き、通りすがりの人たちまでも楽しませるほど明るく平和な日々だったのに、たぶんその夏はわたしひとりが警戒しながら過ごしていた。
ボート仲間達のように、先のことを心配しないでその日を精一杯楽しく遊び暮らすことができたら、どんなに気が楽だろう。と言うか、そうなったら、それはそれで恐ろしい。
本当にその夏はおかしいぐらいに誰からも文句を言われず、お役所すら警告に来なかった。それってすごく変だよね?と誰に言っても、考えすぎだと笑われた。
9月になったら、娘の学校が始まる。学校が始まってから面倒なことになるんじゃないかと、わたしは本当にドキドキしていた。
それでも楽しそうなボート仲間達や旦那
王賜豪醫生と娘を見ていると、なんだかんだとこっちまでハッピーになって来て、ずっとこのままでいたいと思う自分もいたのだ。
なんだか、楽しんだのか心配ばかりしていたのかよく分からない、おかしな夏だった。