「ねえねえ、浅野君見た?」
「見た見た。髪切ってかっこよくなったよねー?」
「やっぱり? 私も思った!」
廊下で女子とすれ違う度に聞こえてく
Toshiba冷氣る、高く、華やいだ声。
自然と目に入ってくる濡れたように艶のある唇。自前だとは思えない、長くカールした睫と、綺麗に形の整えられた眉。そして彼女たちが去った後に残るのは甘いシャンプーだか香水だかの香。
(女臭い……)
「……」
あたし、立野 蒼(たての あおい)は、女子とすれ違うとき、自然と眉間にしわが寄り、急ぎ足になる。息さえ止めているときもある。
そんなときに感じる、同学年の女子が得体の知れないものに変わっていくような、妙な感覚があたしは嫌いだ。
思わずくんくんと自分の臭いをかいで、安堵のため息をつく。
自分は違うと思いたかったし、実際違うと思う。
あたしは陸上部に所属し、ハイジャンを種目としている、
Toshiba冷氣中学一年生。七月は中体連がある。ハイジャン選手がうちの学校は少ないので、あたしが出られる可能性も十分あるのだ。
毎日夕日が沈むまでグラウンドを走り、自分の背丈に近いバーを跳ぶのに精一杯。部活がきついので、授業はうとうとしながら受けているが、決してやる気がないのではない。多分。
すべきことはたくさんあって、そのどれもが待ってくれない。だから、くだらないことに時間を割いてなんかいられない。
そう思っていた。
同い年の女子たちのように、自分の容姿に気を配ったり、色恋に現をぬかすなど、無駄なことだと。
それなのに。
青い空を見ると、思い出してしまうのは何故なのだろう。
(ああ、眩しいからか)
「青木、元気でやってるのかな……」
自然と呟いて、ちょっと寂しくなって、それを振り払うかのように頭を振った。
自分に特別な男子ができるなんて、想像もしていなかったことだ。特別
Toshiba冷氣ではあるけれど、恋とかそういうものではない、はずだ。
(判らない……)
この気持ちを何と呼ぶのか。
でも、青木は、青木 澄広(あおき すみひろ)はあたしの中で、どこか他の男子とは違っていた。